「会社が考えるべきこれから必要な社員満足対策とは?(Ⅰ)」から引き続き、マズローの5段階欲求とエンパワーメントを合わせた視点で本題を記載していきます。
社会的欲求
「生理的欲求」と「安全の欲求」までが物質的欲求であるとすれば、「社会的欲求」からの上段は、精神的な欲求と言えます。一般的に人間は、食べ物が食べられるようになったとしても(生理的欲求の満足)、安全・安心に生活できるようになったとしても(安全の欲求)、その次に生まれてくる「自分を理解してくれている相手が近くにいて、その人達と会話をしたい」と言う欲求は満たされません。
そこで、家族や会社、チームや団体等に所属する事で、自分が社会とつながり、家族、友人、上司、同僚と良好な人間関係を築きたいという欲求が「社会的欲求」です。
これからの時代に経営者が考える事
社員が仕事において「社会的欲求」を満たすことが出来るかどうかは、社員個々の違った価値観に結果要因が委ねられている事は間違いありません。しかし会社側・経営者側が「社会的欲求」を社員が満たすために出来る事はあります。
①会社・組織・チーム等が、どんな業務を行っていて、どんなスキルを求められているのか?職場風土はどうなのか?ワークライフバランスはどうなのか?などの職場に関する情報を積極的に開示する事です。
これによって、社員が自分に合わせた「社会的欲求」を満たすための選択肢を与えられることになります。
②職種・職掌に対して会社が要求するスキルや業務内容を画一的にしすぎない事。
これは今までの日本的な業務設計では、営業にはバイタリティーと体力、コミュニケーション能力を優先して要求してきたり、経理部門には経理関係知識やPCスキルを求めたりなど、職種によって画一的にスキルの領域を求め、職掌によってその業務に関する深さを求めてきました。
エンパワーメント化される組織設計の中では、組織内やチーム内で全員が同一業務を遂行するとは限りませんので、逆に多様なスキルや特性を持った社員が必要になります。
承認欲求
会社に所属し、チームの仲間との人間関係を構築できれば「社会的欲求」が満たされますが、次に現れる欲求は社会と接する中で自分自身を”高く評価されたい”、”認められたい”という「承認欲求」です。
仮に一生懸命仕事をしているつもりでも、そのプロセスや結果が一切認められなかったとしたら皆さんはどう感じるでしょうか?自己責任として再奮起をされる方もいると思いますが、大半の方は今後の業務モチベーションに大きく影響してしまうはずです。
この「承認欲求」は、小さな承認でも効果があり、その代表例がSNSなどの「いいね!」ボタンです。
このように大きく承認したり、高く評価する事も時として必要ですが、社員の「承認欲求」をたすために大切な日常行動は、上司や仲間たちからの「いいね!」という小さな言葉や態度です。
これからの時代に経営者が考える事
社員を承認すると言う行為は、承認する側からすれば何らかの承認基準があり、それは時には規定や目標などの顕在化された基準の場合であったり、また時には自分の過去経験による困難度や希少性などの潜在化された意識の中に承認基準がある事もあります。その基準をクリアした場合に行動に出ると考えるのが自然です。
その時、今までの業務命令からの業務履行という流れの中では、職種や職掌という基準が承認行為に大きく影響している事は間違いありませんでした。ところが環境変化に即応するためのエンパワーメント化組織の中では、個人の持つ特性を認めて、特性を活かした役割分担をするというチームマネジメントになるため、職種や職掌によって業務が規定される事はないのです。
この環境変化スピードの激しい環境の中では、既存の職種・職掌による業務設計や評価体系は、目指す組織との乖離が起きる事になります。
したがって、チームマネジメントを前提とした業務設計や給与体系に関しても定期昇給と成果達成型部分のバランスの見直し、合わせて評価体系の見直しが必要になってきます。なお、承認欲求の解決とは直接関係ありませんが、チームマネジメントによる業務設計には、社員一人一人の特性ポートフリオなどによるガラス張りにされた特性マップが必要になる事も忘れてはいけない点です。
自己実現欲求
「生理的欲求」から「承認欲求」までの4つの欲求がある程度満たされると、次に欲求として現れるのは「自己実現欲求」です。この欲求は”理想の自分”や”夢”に起因するもので、プロ野球選手になりたいとか、社長になりたいとか、SNSで億万長者になりたい等の欲求が該当します。
この「自己実現欲求」そのものは、他の4つの欲求満足の結果として発生するものとは必ずしも言えませんが、現実的な欲求として発現するのは、4つの欲求がある程度満たされてからです。
仕事上での「自己実現欲求」という点で考えれば、現在の職場でどんなに他のメンバーから称賛されても、上司や会社から高く評価されても、本人が今とは別の職種を求めていたり、周囲が思う以上に高い理想像を持っている場合には、本人の「自己実現欲求」が満足される事はありません。
これからの時代に経営者が考える事
今までの職場意識や会社の人事制度では、個人の「自己実現欲求」はあくまで個人の理想論の話であり、制度やマネジメントが実現サポートに深く関与する事を求められていなかったのが現実です。
しかし、会社の業績を作っていく事が、環境変化の最前線にいる社員の責任を持った自律的行動結果に大きく影響されるのだとすれば、制度として「自己実現欲求」を満足できるための仕掛けが必要である事は間違いありません。
そのためには、すべき事は
①社員一人一人のキャリア欲求をしっかり把握するための仕組みを作る事。
これは今までの人事面談やキャリア面談のように、成長をサポートするための管理者側との相互コミュニケーション機会であったものとは違って、社員個人の意思を一方的かつ自由に意思表示してもらうべきものです。
②今の職場に年功序列や職歴による職種運用のルールがあれば、完全排除できなくても例外的運用を大きく広げる事。
つまり仕事上の「自己実現欲求」に関しては、満足やチャレンジする可能性が常態的にある事を広く全社員に伝えてあげる事が必要です。
また目に見えるように象徴的な実際の人事運用を行って多くの事例を作っておくことです。人事担当や経営者側からすればリスクは否定できない面もありますが、マイナスリスクよりも多くの社員の業務モチベーションという、目に見えなくとも大きなプラス要因が、今後の経営に寄与できるはずです。
さて、最後になぜ社員満足を大切にすべきなのか?について下段で整理します。
社員満足を大切にする理由
「〇〇満足」という言葉をビジネス界で考えると、まず先に「顧客満足」という言葉が出てくる方が多いと思います。
日本では「社員満足」よりも「顧客満足」が優先されてきました。これは「良い物を作れば必ず売れる」「そのためには従業員に多少の犠牲を負わせる事もいとわない」という戦後から高度成長経済にかけて言われていたことが、近年まで引き継がれてきているからです。
ところが近年になって人材難が言われる環境になると、「顧客満足を得るためには、社員満足が高い環境を作る事が重要」と言われるようになりました。また社員満足を高める事のもう一つの大きなメリットとして、人材獲得競争に優位に影響を持つ事になります。
この社員満足を得るための環境つくりで有名な企業に、スターバックスがあります。スターバックスでは、社員同士の称賛を行う”グリーンエプロンブックカード”と言う仕組みや、3か月ごとに日常行動による給与変更が可能なシステム導入など、様々な仕組みが作られており社員満足の高さが顧客満足の高さにつながる好例として多く紹介されています。
以上のように、現在の環境下に置いて「社員満足」を高める環境つくりは、結果的に業績向上を求める企業や組織には必須な行動であると言えるのです。
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