マネジメントに関しての研修をやっていると、新任管理職の方から「私より年上の部下には、どのように接すれば良いのでしょうか?」という質問を多く受けます。
この背景には、「年長者は敬(うやま)うもの」という意識と「部下は従わせるもの」という二律背反な固定概念が、特に新人リーダー達を悩ませる原因となっているのです。
また、この悩みが多く聞かれる原因には、
①生活スタイルの多様化などから「スローライフ志向」が増加し、管理職になりたがらない社員が増加している事。
②非常に速い環境変化によって、過去のマネジメント知識や経験が役に立ちにくいなっており、社内では新しいマネジメント教育を出来る人が少ない事。
という点が原因になっています。
このコラムでは最初に結論をお伝えし、その後背景や考え方をお伝えする事とします。
また日常の接し方以外の具体的なマネジメント方法(※)については、次のコラムで記載を行います。
(※「チームメンバーの活用方法」・・文末に遷移ボタンがあります)
結論<考え方>
◇リーダーは、年上者のメンバーを敬うのではなく、メンバー全員を尊ぶ相手と考えよう。
◇年上者が持っている長所で助けてもらう事を考えろ。
参考
敬(うやま)う・・・対象を高位のもの、上位のものとして礼を尽くす事
尊(とうと)ぶ・・・価値あるものとして重んじる。尊重する。<出典:Goo辞書>
「メンバーは従わせるもの」ではない。
「上司にとって部下は従わせるもの」や、逆に「部下は上司に従うもの」という考え方は、私が若かったサラリーマン時代には当たり前のような考え方でした。
この考え方は、武士社会から、軍や警察など、特に統制を重んじる組織において古くから存在し、今現在も多くの職場で根付いている概念です。
例えば自衛隊では、幹部候補生の若手隊員は入隊後すぐに年上の部下を持つ事になるようです。そして、「自分は人の上に立つ立場である」「指示命令を出すのは私である」という考え方で年上の部下に接していくようです。
しかし私たちが置かれている現在の環境は、情報の氾濫により消費者や利用者のニーズは短いサイクルで変化する事が当たり前になってきました。また、新型コロナや自然災害のように、予測し準備が出来ない突発的な環境変化が毎年のように起きています。
その結果、組織やリーダーが持つ過去経験は、必ずしも全国の組織やメンバー全員を画一的に従わせる事が合理的では無いケースが頻繁に発生しています。
したがって、消費者や利用者を対象としている職場では、前記した自衛隊のような統制を優先していると、消費者や利用者を置き去りにした戦略・戦術を取る事になり、業績面では伸び悩みや悪化を招く事になります。
環境変化によって業績変化にさらされている職場では、組織や上司は統制を優先するのではなく、
①第一線の社員へ向けて可能な限り権限の移譲を行う。
②第一線の社員自体が戦略・戦術への立案・参画を行う。
という変革を実行しなければなりません。その結果、職場のリーダーが日常取り組むべきマネジメントも以下のように変化する事になります。
ポイント
職場のリーダーは、「メンバーが主体的・自律的に働ける職場環境を作る事がメインの仕事」であり、「統制や管理によって部下を従わせるもの」ではない。
※組織は全国を画一的に指示すべきではない。職場のリーダーはメンバーを画一的に管理すべきではない。すべき事は、権限を委譲された地方組織やメンバーの行動をサポートするものである。
という結論になります。
年長者の敬い方という考え方は間違っている
ビジネス上での「年長者の敬い方」は、一般的な年長者の敬い方とは少し違いがあります。ビジネス上では、相手が年長者だからと言って何でも言う事を聞くべき・・というものではありません。
言い方を変えると、リーダーはメンバーの年齢や性などの属性(年上・年下、男性、女性など)で、対応を変えるのではない事を理解する必要があります。
では、何を見るのか・・これが本章の最大のポイントになります。
ポイント
職場リーダーの最も大切な業務は、メンバー一人一人が必ず持っている長所を、組織成果に活用するマネジメントをする事です。
そのためには、メンバーの短所にばかり目を向けているのではなく、全員の長所に目を向け、そしてそれを認める事、つまり性や年代に関係なく、メンバー全員を尊ぶ事が大切なのです。
そう考えれば、そもそも「年長者の敬い方」というフレーズそのものが存在しない事になります。
全てのメンバーに共通した正しい接し方をすれば、結果的に年長者のメンバーへの接し方も正しい物になります。
前章で、職場のリーダーは、「メンバーが主体的・自律的に働ける職場環境を作る事がメインの仕事」と定義しましたが、これを実現するためには大きな前提があります。
それは、常に相手を人として認め、信用する事。そして業務以外では一人の人として対等に接する事です。
これを体現する具体的な行動(例)は次の通りです。
①年上のメンバーに対しては常に敬語で話す。
自分は職場のリーダーであるから、「後輩だろうが先輩だろうが区別なく上司風を吹かせる位じゃないと舐められる」という考え方は昭和時代の話です。
注意ポイント
メンバーから舐められないようにするリーダーの言動は、メンバーの自律的な行動を促すために意味を持たないばかりか、逆効果になるリスクがあります。リーダーがメンバーから敬意を払われるためにすべき努力は、高い人間力を発揮できるようになる事です。偉ぶる事、横車を押す言動をする事、責任から回避する言動などは、現在では管理能力の無いリーダーがする行為と言えます。
基本として気心が知れ合った関係になるまでは、メンバーが年上・年下に関わらず、敬語で会話する事をお勧めします。
特に自分より年長者のメンバーに対しては、業務内外に関わらず敬語で話すことが基本です。
信頼関係が出来た場合に平易な言葉でコミュニケーションを取る事は良い事だと思いますが、リーダーだからと言って命令調な話し方であったり、横柄な話し方をする事は、職場環境づくりを役割とするリーダーがする行為ではありません。
②業務時間外は、あえて相手が先輩である事を強調した態度を取る。
相手が年長者であっても自分が職場のリーダーであれば、必要な業務判断をすることも、時として指導する事も必要です。
しかし、いったん業務から離れて業務時間外に一緒に飲酒等を行うシーンになったら、貴方が職場のリーダーであっても年長者のメンバーは人生の先輩です。当然のごとく敬意を払う行動を取るべきです。
このような行動を取る事で、年長者のマインドを獲得するだけでなく、他のメンバーからも「人間力」の高い上司として評価される存在になることが出来ます。
そして、前出したように「メンバーは道具ではなく、自分の成果を作ってくれるお客様です。」と考えれば、夜の飲食時などは単なる飲み会ではなく、接待と同じです。メンバーの愚痴や意見提起など、毎回とは言わないまでも、機を選び進んで聞いてあげる事も必要です。
私自身も、”上司であるのは業務に関する範囲内だけ”という考え方が、私のマネジメントの信条でした。
③年長者であるからこそ、褒める。
メンバーを褒める事はリーダーとしてのマネジメント行動として、必要な手法です。年長者に対しては、なかなか誉め言葉を言いづらい方が多いようですが年長者は褒められる機会が少ないため、誉め言葉に対して予想以上に喜んで頂けるものです。
注意ポイント
リーダーとして年下のメンバーを褒める時のように、「〇〇さん、良く出来ましたね・・」と上から目線で褒めるのではなく、「〇〇さん、さすがでした、ありがとうございます」というように、感謝の言葉使いで褒めるようにしてください。
④年長者の得意な業務で、チームを任せてみる。
上記①~③までを実行し、年長者のマインドを確保できたとしても、リーダーとしては年長者を業務面でプラスになる形で参画させたいものです。
そのために、「個人ではなく、チームで仕事をする事」と「人を自分がコントロールしてみる事」を実際の業務で体験してもらう必要があります。
具体的には、年長者が得意な業務を選定し、リーダーの管理スパンの中でプロジェクト化した上で、年長者にそのプロジェクトリーダーを任せてみましょう。
その際の注意点としては、
ポイント
(A)本人には重要なプロジェクトとしてメンバーを牽引するお願いをしっかり共有する事
(B)できるだけ失敗しない課題でプロジェクトを設定する事
(C)メンバーへの説明もリーダーがしっかり行う事
(D)中間チェックは短い管理スパンで実施し、年長者のサポート(決して叱ってはいけない)をこまめに行う事
(E)目的は、年長者への将来的なチーム意識の醸成であり、プロジェクトの成果ではない事を忘れない事
1~2回失敗しても、成功するまで続けることが大切です。その間はリーダーは常にサポートに徹して、他のメンバーが年長者にチーム意識を植え付けてくれるまで我慢しましょう。
年長者の意識改革は、上司が行うより同僚からのプレスの方が効くものです。
いかがだったでしょうか。年長者のメンバーへの接し方が難しいと思うのは、過去の間違った上司像や固定概念が原因です。考え方を変えることが出来れば年長者のメンバーだけが難しい事はないのです。