「リーダーに必要な要素は何か?」と問われたら何と答えるでしょうか?
最近の書籍や研修、ネット記載などを見ていると、今回のテーマである「人間力」という言葉が、リーダー(上司)に必要なものとして数多く記載されています。では、この「人間力」とは何か? また、なぜ「人間力」が必要なのかについて考えていきます。
「人間力」の定義と構成する要素とは?
「人間力」の定義には、確立した定義という物は存在していません。
Wikipediaでは、人間力戦略研究会の座長であった東京大学教授の市川伸一氏が定義した、と言う前提で以下の記載があります。
社会を構成し運営するとともに、
自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力
これを読んで皆さんはどう解釈するのでしょうか? 私には人間力の定義ではなく、「すべての人間が社会の中で生きていくために必要な要素」の定義にしか映らないのですがいかがでしょうか?
次に、同じWikipediaには、「人間力」を構成する要素として以下の3点が記載されています。
①知的能力的要素(能力)・・基礎学力、専門知識、論理的思考力、創造力
②社会・対人関係力的要素(能力)・・コミュニケーションスキル、リーダーシップ、お互いを高め合う力
③自己制御的要素(能力)・・意欲、忍耐力、自分らしい生き方、成功を追求する力
と記載があり、更にこの3要素にはバランスが大切で、バランスよく高める事が「人間力」向上につながるとされています。
つまり、以下のような図になります。
この3要素がバランスよく高められている状態が「人間力」が高いという事。
どんなリーダー(上司)が「人間力」が高いと言われているのか
前項で、「人間力」の定義と構成要素を記載しましたが、実際にどんな上司が「人間力」が高いのか?について調べてみました。
「人間力」が高い人はどんな人?
メモ
迎合しない自立心、自分で立てた信念や規律を遵守する強さを持っている人/優しい心を持っている人/覚悟がある人/芯の強さを持っている人/社会や人のために動く人/人間性が豊かな人/勇気がある人/気配りができる人/信頼できる人/ビジネスを創れる人/リーダーシップがある人/正しい決断ができる人/先見性がある人/洞察力がある人/広い見識がある人/頼れる人/安心して心を許せる人/高い志や理想をもっている人/相手の気持ちを察することができる人/思いやりがある人/人情がある人/知性や知恵が高い人/誠実な人/責任感がある人/器の大きい人/人の話を傾聴できる人/人を育てる人/部下の面倒見がいい人/人を助ける人/多少おせっかいな人/ボキャブラリィーがあると感じる会話をする人
上記に多くの意見を記載しましたが、黒色=知的能力、青色=対人関係能力、赤色=自己制御能力に色分けしてみました。
これにより、前項で「人間力」という定義では3つの要素がバランスよく高められている状態と書かれていましたが、決してバランスが良い状態ではなく、3つの要素は互いに平等の関係では無いと気づかされます。
それはどのような事かというと、まずは以下の3つの図をご覧ください。
この3つの図は、「人間力」の定義に記載されている「3つの構成要素がバランスよく高め合う状態」を意図的に崩した時(各要素の内1つだけを大きく顕在化させ他の2つを相対的に小さくする状態)に、どのような状態となるのかを見てみたものです。
まず「図1」の状態は、対人関係能力と自己制御能力が相対的に低く、知的能力が際立って高いリーダー(上司)の場合です。このようなリーダーは、良くみられるパターンだと思います。学歴が高く、知識では負けないというプライドが高いが、一方で慕ってくれる部下は少なく、スキルで仕事を強引に進めていくリーダーです。この人に対して「人間力」が高いとは決して言われないと思います。
次に「図2」の状態は、知的能力と対人関係能力が相対的に低く、自己制御能力が際立って高いリーダー(上司)の場合です。このようなリーダーも見かけるパターンで、上司たる理想が高いゆえに常に理想論をかざしてくる一方、自分に対しての律し方は隙を見せないほど厳しいため、本心をなかなか見せないため、少々近寄りがたくなるリーダーで、仕事の指示も厳しいタイプです。この人に対しても「人間力」が高いとは決して言われないと思います。
最後の「図3」の状態は、知的能力と自己制御能力が相対的に低く、対人関係能力が際立って高いリーダー(上司)の場合です。このようなリーダーは特に昔の人情型リーダーとして見かけるパターンです。部下の仕事にはしっかり指示を出してくれるため困る事は少なく、失敗しても責任は取ってくれる、飲み会での付き合いは良く、金払いも良いというイメージですが、一方では難しい知識や数字の扱いは苦手で、経営に対してのポリシーなどは聞いたことが無い、そして時には酒癖が悪くて部下に面倒を掛けると言うようなタイプです。実はこのタイプの人に対してのみ、なぜか「人間力」が高いと言われる事があります。
そうなると、リーダーは「対人関係能力」だけを磨けば良いのか・・と言う事になりますが、そうではありません。
「人間力」を構成する3要素について、今まで記載してきた内容を踏まえて、再度関係性を整理してみると。
「対人関係能力」は人間力を構成する上での必須要素。 「知的能力」と「自己制御能力」は、人間力を大きく見せる要素。
このように整理することが出来ます。
部下との人間関係能力を高めるのは?
さて、人間関係能力が「人間力」を高めるための必須要素であることが判りましたが、知的能力や自己制御能力に比べて、成長するのが難しい能力でもあります。例えば、”優しい人”であるとか”相手の気持ちを察せる人”など、上記に記載した「人間力が高い人はどんな人?」に記載されている赤字記載ワードのように、言葉では書けるが具体的にどうすれば良いのか判らない・・というGoalが列挙されています。
そこで、私が今まで見てきたリーダーの中で、部下との人間関係能力が高いと言われて全国の見本となっていたリーダーが日常どんな行動をしていたのかを記載することにします。
参考
・毎日出勤してきた時には、全員にちゃんと挨拶をして顔色を見る。
・毎日必ず全員の部下と1回は会話をする。
・プライベートには、ハラスメントギリギリの線まで入り込んでくる。
・良い答えがたとえできなくても、困ったことが在ったらとことん話を聞く。
・親分肌の言動をしているが、親しみがある。
・仕事に厳しい事は言うが、その仕事をちゃんと見ている。
・部下の悪口は同僚や上司など周囲に対して絶対に言わない。
・失敗した時は決して厳しい戒めは行わず、責任は黙って全部自分で取る。
・暇な時は、馬鹿になってふざけて遊んでいる。
・難しい事はしないし、言わないし、出来ないと素直に話す。
こんな感じです。
繰り返しますが、このリーダーは部下との人間関係の能力に秀でた存在ではありましたが、「人間力」を更に高めるための知的能力と自己制御能力が高いわけではありません。しかし、この組織は業務成績でも常に優秀で、悪くても「中の上」レベル以上には常に位置していましたし、何より他の組織の多くのメンバーがその上司のいる組織への配属希望を持っていました。
さて、この人間関係能力の高いリーダーの行動について、大きなポイントになる補足をします。
ポイント
全ての行動は、「毎日・・・」「必ず・・・」「絶対に・・・」と言う言葉をつけても違和感がないほどブレる事はありません。それは、リーダー本人の体調に変化があっても、家庭環境において何かあっても同様です。
本人曰く、ブレないというレベルは、100回うまく出来ても1回失敗したら、今までの100回の成功すべてが消滅してしまうというほど常に緊張感を持って接していたようです。このブレの無さが一番難しいけれど、一番信頼感が醸成できる行動なのです。
「人間力」が必要な理由は、部下を”使う”のではなく”動かす”ため
当たり前ですが、人間は感情の動物です。貴方の部下もその感情を持った人間なのです。リーダーの中には、仕事に個人的な感情を持ち込むな!と堂々と言う人がいますが、人間である以上無理な注文なのです。
部下に仕事を命令する時に、「人間力」が無ければ仕事をやってもらえないという事はありません。
知的能力を持って説得すれば、反論が出来ずに行動するかもしれません。自己制御能力を持って、自分のビジョンや拘りを淡々と説明すれば、根気に負けて行動してくれるかもしれません。さらに言えば、「業務命令」である以上、部下は仕事をしなければなりません。
しかし、これらによる部下の行動は、上司が部下を「使っている」姿であって、「動かしている」姿ではありません。
一方、人間関係能力の高く、他の2つの能力も持っているリーダーから仕事の発注を受けた部下は、自ら行動をはじめ、50の目標を持っていれば50以上の成果を出し、100%達成の指標を持てば100%以上の指標達成度を出す行動をしてくれるものです。これは、上司に使われているのではなく、上司に動かされているからなのです。
また、今現在の成果と言うより、将来の自分や会社の為に変革を行っていく「エンパワーメント化」のような取り組みの時も、部下各自がしっかり腹落ちした上で自律的に変革のための行動をする事が重要であるため、「人間力」の高い上司の下にいる部下は、本質的な変革に進化できる可能性が圧倒的に高いはずです。
ポイント
つまり、「使う」と「動く」では全く意味が違う事を人間力の高いリーダー(上司)は自然と知っています。
そして人間力の高いリーダー(上司)からは、将来の中核になれる優秀な部下が育っていくのです。
注意ポイント
最後に注意点ですが、「人間力」に必須な要素である「人間関係能力」は、それだけでは部下は育ちません。人間関係能力の高いリーダーがいる職場は、開放的でコミュニケーションも良いため、非常にメンバーの居心地が良いものです。したがって人間関係能力の高いリーダーがいる間の職場は、優秀な成績を出せていても、その間に新しいスキルや長期的な展望・必要な成長要素などを部下が取得する事に迫られないため、リーダー(上司)が変わった時に苦労する部下が多く生まれてしまいます。
その様な部下を作らないためにも、人間力の高い上司になれるように、リーダーは日常からの努力と自己研鑽が必要なのです。